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京都地方裁判所 平成7年(わ)820号 判決

主文

被告人を懲役一年六月に処する。

この裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、NTT電話回線を利用していわゆるパソコンネットである「甲野ネット」を開設・運営しているものであるが、右パソコンネットの不特定多数の顧客にわいせつな画像を送信し、再生閲覧させてわいせつ物を公然陳列しようと企て、平成五年一一月ころから同七年七月三一日までの問、右「甲野ネット」の開設場所である大阪府豊中市《番地略》乙山文化一階左側の部屋において、男女の性器、性交場面等を露骨に撮影したわいせつ画像のデータ合計約四一八二画像分を順次、右「甲野ネット」のホストコンピューターであり、右電話回線に接続したNEC製パーソナルコンピューターのハードディスク内に記憶させて、ホストコンピューターの管理機能に組み込み、電話回線を使用して、パソコン通信の設備を有する不特定多数の顧客に右わいせつ画像が閲覧可能な状況を設定し、右わいせつ画像の情報にアクセスしてきたAら不特定多数の者に右データを送信して再生閲覧させ、もって、わいせつ物を公然陳列したものである。

(証拠の標目)《略》

(争点に対する判断)

弁護人は、(一)コンピューターのハードディスク内に記憶されたわいせつ画像のデータは、刑法一七五条にいうわいせつ物に該当しない、(二)本件わいせつ画像のデータのうち、被告人がハードディスクにアップロードしたのは七〇〇画像分から八〇〇画像分である、その余は、会員がアップロードしたものであり、これについては、被告人は刑事責任を負わない、と主張する。

一  右(一)の点について

本件わいせつ画像のデータは、証拠上明らかなように、被告人の所有・管理する特定のハードディスク内に記憶・蔵置されているところ、本件アルファーネットの利用者が被告人のホストコンピューターにアクセスし、右画像データをダウンロードして再生しさえすれば、容易にわいせつ画像を顕出させることができることも証拠上明らかであるから、本件におけるわいせつ物とは、わいせつ画像のデータが記憶・蔵置されている特定の右ハードディスクであると考えることができる。この理は、わいせつな映像が記憶されたビデオテープの場合と同じである。ただ、本件ハードディスクの場合には、ビデオテープの場合に比べて、そこに記憶・蔵置されたわいせつ画像を顕出させるために、より複雑な操作・機器等が必要であるに過ぎない。

二  右(二)の点について

前掲関係証拠によると、次の事実が認められる。

1  被告人は、パソコンネットである甲野ネットを開設運営し、ホストコンピューターを所有管理していた。

2  右のような地位にあった被告人は、わいせつ画像を見せて、会員を増やせば金儲けになるとの考えから、会員がわいせつ画像のデータをハードディスクにアップロードするのを単に黙認していたというのではなく、自ら電子掲示板で会員に対し、わいせつ画像をアップロードするよう奨励するとともに、わいせつ画像のデータを三〇画像分アップロードした会員には二ケ月分の会費を免除し、多数あるわいせつ画像データを会員がアクセスしやすいように分類するなどしていた。

3  被告人は、会員がアップロードした画像データの内容のすべてを確認した訳ではないとしても、画像データのおよその数を把握していたばかりでなく、その内容がわいせつ画像のデータであろうとの認識を有していた。

右のような事実によると、会員がアップロードした画像データの分についても、被告人が正犯として刑責を負うのは明らかである。

(法令の適用)

罰条 刑法一七五条前段(懲役刑選択)刑の執行猶予 刑法二五条一項

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 近江清勝)

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